2026年01月29日

場所の内容よりも判定が気になってしまった場所かもしれない

どうしても重要だと思うので,今場所の感想の冒頭に書いておく。今場所は勝負の判断が明確に変わった場所である。朝青龍や白鵬が活躍していた頃から近年までは割とデジタルに接地の瞬間が重視され,死に体はどうしても判断が難しかった時だけに持ち出される概念であった(それ以前の若貴時代まで遡ると私が幼少期になってしまうので記憶が怪しい)。しかし,最近になって突然,死に体が重視されるようになり,今場所は接地よりも優先されるようになった判定がいくつかあった。死に体の概念は曖昧としており,ご存じの方はご存じの通り,勝負規定上は「相手の体が重心を失っている時」としか書かれておらず,こんなものは定義になっていない。そこで別の形容が試みられるものがあるが,それすら相互に矛盾することがある。たとえば死に体は「もうそれ以上技がかけられない状態」とも「自力での立ち直りが不可能な状態」とも言われているが,相撲では技をかけながら立ち直りが不可能な状態になることはよくある。とりわけ今場所で言えば3日目の宇良・大の里戦は物議を醸し,勝負審判とビデオ室で意見が分かれていたことも判明している。それも死に体の概念についての衝突である。「もうそれ以上技が掛けられない状態」を死に体と定義するなら,宇良の技(足取り)は継続中であるから死に体ではなく,宇良の勝ちとなり甲山親方の発言は正しい。しかし,勝負審判は「自力での立ち直りが不可能な状態」を死に体と定義しており,その場合の宇良はどう考えても自力では立ち上がれないような仰向けへの倒れ込み方をしていて,この状態になったのは大の里の接地とほぼ同時であった。勝負の判定を最終的に下すのは勝負審判であってビデオ室はあくまで補助であるから,同体取り直しという結果はこれはこれで筋が通っている。なお,私自身は死に体は「もうそれ以上技がかけられない状態」だと思っているので,これは甲山親方の肩を持ちたい。ともあれ,死に体の概念が固まらないまま今後も死に体を接地よりも優先する判定が続くなら,しばらく勝負結果の混乱が続くのではないか。もっとも,では平成末期頃のデジタルな判定が良かったかというと,あれはあれで行き過ぎていて,「かばい手は負けになる可能性すらあるから,顔面から落ちればいいんだよ」とNHKの解説で発言する親方すらいた覚えがある。バランスの良い判定をお願いしたい。


さて,安青錦は二場所連続での優勝となった。新関脇・新大関での連続優勝は双葉山以来で89年ぶり2人目。新大関での優勝に限っても白鵬以来で20年ぶりで史上9人目と大きな記録を作った形である。相撲ぶりは先場所とさして変わっていないが,苦手なパワー型力士をなんとか攻略しようと工夫している様子は見られた。それは今場所に成果を上げなかったが,来場所に期待したい。安青錦は来場所に綱取りとなるが,懸案事項は先場所も今場所も優勝が12勝という点にあり,これは流石に星数が少ない。したがって,優勝であれば何勝であろうと三場所連続優勝ということになるから,横綱昇進以外の選択肢は存在しない。問題は優勝に準じる成績だった時で,これは星数でかなり揉めそうである。私の推測だと,14勝同点・次点は文句無しで昇進。13勝同点は少し揉めそうだが,最終的には上げる判断になりそう。13勝次点・12勝同点は相当に揉めるだろうが,3横綱を避けるべく流す可能性の方が高いと思われる。私が信頼を置いている綱取り研究所さんは「優勝なら12勝、準優勝なら13勝がボーダーライン」としていた。果たしてどうなるか。

もう一つ安青錦について言及しておくと,大の里・豊昇龍・安青錦の三すくみ状態は非常に面白い。安青錦は,豊昇龍には技術が同等で合口が良く,合口の良さがパワーの差を上回っているので勝てる。しかし,大の里だとパワー差が大きすぎて,技術力の差でひっくり返せず,勝ち目が薄い。豊昇龍の場合は安青錦よりもパワーがあるので,大の里とのパワーの差が相対的に小さく,技術でひっくり返せるので大の里を攻略できている。しかし,安青錦は前述の通り技術が同等で合口が悪い。これを大の里視点で見ると,安青錦ならパワー差でひっくり返せるが,豊昇龍は難しい。この均衡は容易に崩れそうになく,三人とも若いので当分続きそうである。


個別評。横綱二人ケガが響いて実力を発揮した場所とは言いがたい。それでも大の里は左肩のケガと付き合いながら初めて場所を完走したことになり,自他ともに認める良い経験になったと思われる。休場もやむなしと思われるようなケガを負いながら,それを悪化させないように,むしろ回復させて尻上がりに調子を上げ,きっちりと安青錦を倒したのは見事だった。豊昇龍も悪いなりに10勝にまとめたと思うが,豊昇龍は横綱になって以降「横綱として優勝しなければ」という意識が強すぎて稽古で自分を追い込みすぎ,かえってケガを増やして場所に挑む羽目になっているように思われ,本当に気楽に相撲を取ってほしい。琴櫻は8勝ぎりぎりの勝ち越しだが,トップ3人からの黒星を除くと8−4ではあり,そこまで悪い戦績とも思わない。いや,大関ならちゃんとトップ3人に割り込めよと言われたらそれはそう。

関脇・小結。霧島は今場所も好調だったが,突如として相撲が乱れるので,ちゃんと大関に復帰するまでずっと心臓に悪い。豊昇龍と似たタイプだが比較的安青錦に苦戦していないので不思議である。王鵬はツラ相撲の悪い面が出て終盤失速した。もったいない。前頭上位。草野改め義ノ富士は8勝止まりで案外勝てなかった。体格が良く技術もあるが,押し相撲に弱く,左四つにも弱いので差し負けても厳しい。こう書くと朝乃山に近いかもしれない。今場所はかなり研究されていて苦戦したものと思われる。宇良と一山本は家賃が重くて大敗したが,相撲自体は面白かった。伯桜鵬改め伯乃富士はよく健闘していたが途中休場でもったいない。この人もあまり身体が大きくない中でパワフルな相撲を取っているので,今後もケガとの戦いになりそう。優勝同点の熱海富士は明確に立ち合いが良くなり,当たりが強くなった。もとより身体が大きいパワー型の力士であり,動きが鈍重なことが弱点であるが,立ち合いで崩せればそれを突かれることはない。右四つになると強いが,今場所は外四つでも極めて出ることが出来ており,師匠に習ったか。

前頭中盤・下位はあまり語るところがない。藤ノ川は先場所同様,スピードの相撲で見ていて面白い。この地位で10勝は立派な成績で,来場所の上位初挑戦も,星数はともかく相撲内容の面で期待が大きい。朝乃山は誰にでも勝って誰にでも負けるというところがあるせいか,実力の割に再出世が遅い感じがする。衰えているという感じはあまりないが,いつの間にかもう33歳か。


大奄美が引退した。名前の通り奄美大島の出身で,2015年初場所に実業団横綱から幕下15枚目付出格で大相撲に入った。そのデビューから考えると出世は遅く,最高位は前頭11枚目で,キャリアの大半は十両で過ごしていた形である。右四つ得意で腰が重いが鈍重という典型的なアンコ型の力士であった。当人はやりきって悔いはないとのことであり,実際そうであろう。お疲れ様でした。

それほど困らず予想できた。他の予想番付を見ても大体同じようである。幕内から下がるのは竜電,友風,羽出山で,竜電が落ちるのは少し驚いている。とうとう衰えてきたか。十両から上がるのは藤青雲,琴栄峰,藤凌駕。藤凌駕は全然相撲を見たことがないので楽しみ。十両から幕下に下がるのはすでに発表があって3人,英乃海,栃大海,白鷹山。最大5人まであり得るかもと言われていたから,保守的な番付編成となった。荒篤山と風賢央も落ちても不思議ではない成績だったが,今回は助けられた。幕下から十両に上がるのはすでに発表されていて3人,聖白鵬改め寿之富士,福崎(来場所から改め藤天晴),島津海。寿之富士は見た目が白鵬に似ているということで少し話題になっていた。現時点では十両時代の白鵬よりもやや細めか。

2026年初場所

この記事へのコメント
更新お疲れ様です。
安青錦はそこまであからさまに筋骨隆々ではない体格に見えますがベンチプレス210�圓魑鵑欧襪海箸�でき、(腕力自慢の大砂嵐、北勝力で200�圈�尊富士で220�圈砲△旅�の重い高安も「体格の割に相当腕の力が強くてびっくりした。廻しの引き付け、捻りが強いから内無双が決まるというのがわかった。」と評しており、
21歳にして体幹、足腰、技巧、メンタルだけでなく膂力自体も幕内屈指という、そらこの成績残しますわというステータスなんですが、大の里に対しては廻しに食らいついて腕力や技巧を生かす前に
1/2×重さ×スピードの2乗という運動エネルギーの暴力で弾き飛ばされてまともに相撲になる前に負けてしまっているという感じで、体の大きくない真っ向勝負力士の弱点がモロに出ているように感じます。
かつての安芸乃島も短躯にして重心が低く怪力の力士で、千代の富士に4-7で善戦して苦しめたり小錦に対しては真正面から25−10で圧倒したりと並々ならぬ力を持っていましたが、曙や魁皇、水戸泉などのリーチ差や一撃の強さ、衝撃力的なパワーを持っている力士には分が悪く、力を発揮させてもらう前に上からパワーを被せられて負けていた印象で、合口の面白さを考えると少し安青錦と被る部分があるようにも思います。

Posted by バー at 2026年01月29日 13:46
更新お疲れ様です。

上位陣が星を集めた前半戦と、混沌さを増した後半戦、だいぶ場所の様相が違う印象でした。
安青錦は順当な優勝。攻略方法はわかりやすいため、どうしても一場所に3,4敗してしまいがちというのが難点というべきか(割と思いがけない相手に負ける可能性をもってる)横綱昇進については、3場所連続12勝の場合、賛否ある感じですかね、さすがに3連覇した場合、上げないという選択肢は取りづらいでしょう。

三すくみとなっている横綱、安青錦。誰かが取り口を大きく変えない限り、続きそう。豊昇龍を完全に手玉にとっている安青錦を一瞬で吹き飛ばす大の里には驚きましたが、その大の里の圧力を消し去っている豊昇龍という構図。
安青錦の場合は、伯乃富士のように押し一発で大の里を持っていけないので、まわしを取らざるを得ないのですが、どうもそこに大の里の喉輪がヒットしてしまうというべきか。

両横綱は不調。でも皆勤10勝はそれなりというべきか。たまにはこういう場所もあるよねといったところでしょうか(2人同時というのはさすがに印象悪かったかも)
霧島の再昇進は、審判部も前向きらしく(筆頭や2枚目の2桁も起点にしていく方向なのでしょうか、個人的には賛成ですが)しかし、どうもムラがあるのも事実なので、昇進可能性は高く見積もれないのが歯がゆいところですかね。

熱海富士は存在感見せましたが、来場所どうなるか未知数ですかね、琴櫻、大波兄弟とも当たっていないわけで、それを見ないところにはといった印象ですかね。だいぶ体躯をうまく使えるようになった印象です。
Posted by gallery at 2026年01月29日 15:31
* 横綱が怪我で苦しみながらも奮闘するが、安青錦と熱海富士が抜け出す、面白い場所であった
* 大関二場所通過ということになれば現行制度で最速だが、どうなるか
* 霧島は技術が高いのに、照ノ富士に勝てないのが不思議だったが、大の里にも10連敗
 なんか合口悪い力士に徹底的に弱い
* 熱戦が多いわりになんか相撲内容的に語りづらい場所であるような…
* シソンヌが
 「千秋楽結びで画面をグッと引くところがかっこよすぎる」
 と言及したのは非常に良かった
* 市川紗椰と松重豊もよかった
 * でもNHKが公式エンディングに
  「その場所呼んだゲスト」
  とか
  「その場所の企画」
  とかを入れちゃうのはださいよね
* 天覧相撲は非常にありがたかった
 * そういえば
  “天覧・電覧の日、NHKは他の企画を行なわない”
  というものだと勝手に思っていたのだが、今場所は両国の街歩きがあった。
  不敬ではないか?!
* これは二度目だが、近代大相撲100年なのに、BBM社なり他の出版社なりが、
 ムック本の一つも作らなかったのはちょっと残念
Posted by acsusk at 2026年01月29日 20:25
>バーさん
>大の里に対しては廻しに食らいついて腕力や技巧を生かす前に1/2×重さ×スピードの2乗という運動エネルギーの暴力で弾き飛ばされてまともに相撲になる前に負けてしまっている
まさにそういうところですね。厳密にはパワーというよりも重さで負けていると言った方が正確ですね。後半の安芸乃島の話も納得です。
優勝決定戦の熱海富士には勝ちましたが,あれも首投げでぎりぎりですし,今後も重い力士は課題になりそうですね。

>galleryさん
安青錦はどうしても体格差で負けて3・4敗するのが痛いですよね。記事中にも書きましたが,あの三すくみは当分続くと思います。
霧島はムラッ気が大きすぎますね。三場所安定していた大関取り成功当時は相当調整が上手くいっていたのでしょうか……筆頭や2枚目の2桁も起点にするのは三場所目が相当高い成績ならありですが,安青錦に適用されたばかりですし,乱発されるのも考えてしまいます。どうなりますかね。

熱海富士は来場所勝ち越せるか,けっこう疑っています。1場所で身体の使い方が戻るというのは割とよくあることなので。

>acsuskさん
>霧島は技術が高いのに、照ノ富士に勝てないのが不思議だったが、大の里にも10連敗
あら。安青錦が勝てないのと同じような感じですかね。重さで押し切られちゃう。

> 市川紗椰と松重豊もよかった
あの回は良かったですね。Twitterを見ていても皆さんに好評だったようで。また呼んでほしいですね。

そういえば記事中に天覧相撲があったことを書きそびれていました。コメント欄で出してもらったのでそれで良しとしたいと思います。
Posted by DG-Law at 2026年02月02日 01:34
場所前に2人の横綱が肩だ膝だと怪我を発表され、天覧相撲が終わったら順番に休場すると思いきや、両横綱とも千秋楽まで残ったのが意外。こうなると安青錦の優勝が固いように思えてのに、これまた意外と黒星がありました。右腕しか使えない大の里に吹っ飛ばされたのは、何か考え違いがあったのでしょうか。

阿炎がまた優勝できなかったのは残念。強さではもう上位に通じないのかも。朝乃山もそんな感じになってきました。高安は、まあいつも通り。尊富士もかつてほどの素早さは感じず、怪我は怖いです。

幕下で全勝優勝できれば十両復帰できた炎鵬は、最後の全勝対決に敗れてそれが叶いませんでした。6勝目のときに脚を痛めたようで、来場所に引きずらなければ良いのですが。鳴り物入りの新人旭富士、順調ならあっという間に関取になれそうな逸材。3年くらいで横綱昇進に挑んで、今の横綱に引導を渡すくらいまでなると、面白そうです。
Posted by EN at 2026年02月02日 21:56
両横綱は根性で耐えきった感じですね。記事中にも書きましたが,場所中にケガが悪化した様子はなく,大の里はむしろ癒えていっていて,ケガと付き合いながら完走したのは良い経験だったと思います。
阿炎と朝乃山は,年齢はあるでしょうね。尊富士はなかなか復調しませんね。
炎鵬は残念でした。あのケガは大丈夫そうではありますが。
旭富士はどこまで負けなしで出世するのかが楽しみです。
Posted by DG-Law at 2026年02月02日 23:35