2026年03月26日

ケガを押して出場していた力士が多い印象が残った場所だった

内容が面白かった日もあり淡白だった日もあり,トータルではぼちぼちといった場所であった。上位陣は霧島が絶好調だった以外は豊昇龍・琴櫻が並,他はどちらかというと不調で,前半の方が面白い日が多かったのは今場所の特徴かもしれない。調子の波の差で霧島が優勝したのは妥当である。

優勝した霧島は先場所の評に「突如として相撲が乱れるので,ちゃんと大関に復帰するまでずっと心臓に悪い。」と書いていた通りで,結果的に12勝して優勝,大関復帰にはなったものの,14日目と千秋楽には相撲が突如として乱れたので,やはり千秋楽までずっと心臓に悪かった。大関になってからも心配させてくれそうである。こういうのは押し相撲の力士の方が多いので,四つ相撲の力士の霧島で当てはまるのは少し珍しい。大関取りは起点が平幕ながら前頭2枚目で上位総当たりの地位であったこと,二度目の大関取りであること,三場所目が優勝であること,計34勝であることを加味すると異論はほぼ出ないだろう。相撲振りについては,霧島はパワーもテクニックもあるバランス型だが,同じようなタイプの豊昇龍に比べるとスピードに欠く。もう少し技の出が速いと綱取りに手が伸びるかもしれない。

逆に綱取りがかかっていた安青錦は乱調で負け越しとなった。綱取りの場所が一転して負け越すことはよくあるパターンではあるが,安青錦もそうなるとは予想していなかった。さすがに上がらない上体対策が上位陣で進んで先場所までのように低い体勢のまま押し続けることが難しくなってきたこと,綱取りのプレッシャーで動きが固くなっていたことに加えて,負けが込んだことでさらに精神的に難しくなっての負け越しなのだろう。相撲振り自体は立て直せると思うが,千秋楽で豊昇龍に初めて負けたのが気にかかる。これで豊昇龍側に苦手意識が払拭されるとすると来場所以降も安青錦は豊昇龍に苦戦して,三すくみが解消されるかもしれない。

力士の成績以外で言及すべきことというと,今場所の物言いによる裁定も引き続き「死に体」重視の傾向が続いており,少なくとも2026年はこのままの傾向が続くと思われる。あとは観客の野次の間の悪さがTwitterで議論されていた。確かに他はともかく時間いっぱいからの野次は明確に禁止という注意を徹底した方が良さそうである。


その他の個別評。横綱・大関。大の里は左肩のケガの様子が先場所よりも悪く,かなり心配である。大の里の攻めは昔から右が主体で左は遊んでいたが,それでは大関以上に上がれないとなって弱点を克服し,左からのおっつけが見られるようになってから大関取り・綱取りを成功させた。左肩をケガしたことで再び左が遊んでしまうようになり,結果として相撲振りが大関取り前に戻ってしまったように思われる。右がケガをするよりもマシだったと思われるし,先場所はケガと付き合いながらも10勝したし,ケガして二場所経過したしとそれほど心配する材料は無いだろうと思っていたのだが,思っていたよりも弱体化してしまった。来場所こそは万全な状態の大の里が見たい。豊昇龍は可も不可もない調子・成績だった。中日に大栄翔に負けた一番だけが不用意で,あそこで勝っていれば12勝同点,千秋楽の霧島の調子ならば決定戦で勝てていたように思われ,非常にもったいない。琴櫻は8場所振りの二桁勝利。今場所は腰が重く,受け止めてから反撃する相撲がよく出ていた。NHKの親方衆の解説を聞くと「もっと攻めろ」と言われることが多いが,琴櫻はあれで勝てているというか,変に先に攻めると負けているように思われ,私は受ける相撲でよいと思う。安青錦については上述の通り。

関脇・小結。霧島は上述の通り。高安は10日目の王鵬戦で腰痛が再発しており,そこから14日目まで連敗して負け越してしまった。腰の爆弾が重すぎる。熱海富士は先場所に続いては重さを活かして前に出る相撲が光り,千秋楽に手負いの高安に作戦負けしたこと以外は妥当な勝敗がついたと思われる。来場所にも期待したい。若元春は絶不調だったが,よくわからない。こっそりケガでもしていたか。

前頭上位。若隆景は痛めている右肘を使った相撲が多くて痛々しかった。結果的に勝ち越したが,休めなかったものか。義ノ富士は予想できなかった負け越し。パワーも技術もあって鈍重とは言えない程度にスピードもあるが,押し合い中によく足が流れたり,引き技を簡単に食ったり,突き膝っぽい負け方もあって,ちょっとすり足を多めにやった方がいいんじゃないかな……。藤ノ川は絵に描いたような「気風の良い相撲」で,見ていて単純に楽しい。番付運があって一気に上位挑戦となったが,なかなか活躍した。来場所も上位を荒らしてほしい。琴勝峰は優勝した場所のような活躍ぶりで11勝。ただし,中途半端にしか上位に当たらない地位だったために星が伸びたところがあり,上位陣との取組を見ると上位に定着しうる地力とは言えなさそうである。

前頭中盤。伯乃富士は場所前に伊勢ヶ濱親方から殴打されたという事件があって注目されたが,左足のケガが再発して途中休場を挟み,復帰後も終始左足は痛そうであった。全休すると幕内から陥落しかねないということで強行出場したと思われるが,若隆景の右肘と同様に痛々しく,全休できなかったものか。宇良はアクロバティックな相撲で地元の大歓声を浴びて場所をわかせたものの,当人の星取は5勝止まりであった。それにしても,会場の観客席がピンク色に染まるあの人気っぷりはすごい。玉鷲は流石に馬力が落ちてきたか。しかし,こう書くと来場所に馬力を取り戻してくるのが玉鷲という力士ではあり。

前頭下位。朝乃山は8勝止まりで,大関陥落前から抱えている弱点,右四つにしっかり組めないまま攻め込むと足が流れて負けるのに攻め急いでしまうという悪癖が直っていないどころか悪化している。もっと落ち着いて相撲を取ってほしい。朝紅龍は小兵ながらパワーがあるところを活かした相撲振りで,藤ノ川と同様見ていて楽しかった。何日目だったか忘れたがNHKで朝紅龍に密着した映像が流れていて,あれも面白かった。NHKはもっとああいう映像を作って流してほしい。新入幕の藤青雲は10勝,期待に応える幕内デビューだった。四つに組めればかなり強く,幕内中盤でも十分に通用しそうである。反面,組めないと脆いので,来場所以降はそこが課題になるか。幕内二場所目の朝白龍も10勝。いかにもモンゴル人という投げの強さであるが,決まり手は意外と寄り切りが多い。錦富士は今場所も勝ち越して青森県幕内力士在位142年の記録を来場所に継続させた。そろそろ他の青森県力士が入幕して錦富士のプレッシャーを軽減させてあげたいところだが,なかなか遠い。


英乃海と千代丸が引退した。奇しくもどちらも兄弟幕内力士となって話題を読んだ力士である。英乃海は典型的なあんこ型力士で右四つ得意という王道の力士であったが,鈍重で幕内の速さについていけず,長く十両で相撲を取っていた。翔猿の兄だが,兄弟で全く違う相撲振りに驚いたものだ。千代丸もあんこ型ながらこちらは突き押し得意で,丸っこい身体でインターネットでは人気があった印象。土俵際では案外身軽な動きを見せていたのが印象的だった。両者ともお疲れ様でした。

今回の予想番付は割と作りやすかった。他の方のものを見ても似ているものが多い。しいて言えば三役が焦点で,高安を西の関脇に残留させて若隆景を東の小結に置くという配置はありうるだろう。十両に下がるのは阿武剋と翠富士で,本来なら藤凌駕も下がる成績ではあるが,十両上位に好成績者が少ないので助かりそうである。十両から上がるのは竜電と若ノ勝で確定と見ていい。竜電は馬力がかなり落ちていて通用するかあやしい。若ノ勝は新入幕で個人的には未知数。十両から幕下に下がるのは剣翔,藤天晴,荒篤山,島津海。幕下から十両に上がるのは白鷹山,栃大海,炎鵬,大花竜で,こちらも今回は異論が出ないと思われる。

2026年春場所

この記事へのコメント
更新お疲れ様です。

大の里や安青錦、義ノ富士、藤凌駕など、今まで負越なしだった力士が揃って、不振に陥る受難な場所の印象でした。
安青錦は、8敗の内訳をみると、美ノ海と豊昇龍以外の6人は「負けそう」な相手だった印象。相手側の対策が進んだことと、自身の焦りの相乗効果の印象でした。不利になると、小技を仕掛ける印象ですが、これも調子のいいときは決まっても、こうなると墓穴を掘るというのはそういうもんだよなぁと。

霧島。まさかの優勝。きちんと身体が動き、相手を捌く相撲を見事に取れていた印象。ラスト2日は息切れか。実際内容としては、ここ2場所と遜色はなく、天敵・大の里の休場により、白星プラス1された印象でした。

豊昇龍。11勝はそこそことはいえ、琴櫻に負け、千秋楽前に優勝を攫われたのは、印象が悪いか。千慮一失は、大栄翔戦でした。どうも、場所中盤に謎の一敗があるんですよね。いずれどっかで優勝するだろうという印象もありますが、ここまで逃すと、本人の焦りが悪い方向に行かないことを願うばかり。

他に印象に残ったのは、熱海富士。三役初の勝ち越しとはいえ、来場所も好成績になるかはいまいち読めない。まだ23歳なので、そこまで焦らずにじっくりと力をつけてほしいなと思います。

Posted by gallery at 2026年03月26日 11:14
* 優勝争い、相撲内容、土俵外の面白話題(演出等)などなど、なんとなく低調だが、霧島という男の復活が見られた、良い場所であった
* 宝生流はやっぱり不調であったと思う。なんか慌てて相撲を取っている感があった
* 先々場所あたりから「大波兄弟の全盛期の終わり」という感があり、非常に寂しい
* 朝紅龍は確か《刃牙》の愛読者であの体になったとのことだが、当の《刃牙》作中では(相撲力士の強さを讃える意味で、)
「逆三角形の身体は三角形には勝てないのだよ」
という台詞があるとのことで、梯子を外された形である
* 若嶋津は私の中では“アイリの父”という印象が強い。
千代の富士時代前期の力士も少なくなってきた
* BBM社は《日本相撲協会100年史》を刊行してくれたので、みんなで読もう
Posted by acsusk at 2026年03月26日 12:48
>galleryさん
そういえばそうですね。タイミングが重なっただけだと思いますが>今まで負越なしだった力士が揃って、不振に陥る受難な場所
安青錦の負けた相手は,琴勝峰含めてそうですね。しいて言えば豊昇龍と美ノ海意外では大栄翔は勝てそうだった相手だったでしょうか。熱海富士あたりは来場所も苦戦しそうなんですよね。
豊昇龍はありますね。>場所中盤に謎の一敗
「ここまで逃すと、本人の焦りが悪い方向に行かないことを願うばかり」は本当にそうです。今のところは精神が安定していて,すごいなと思います。

>acsuskさん
> 宝生流はやっぱり不調であったと思う。なんか慌てて相撲を取っている感があった
豊昇龍ファンに言われると説得力があります。とすると11勝はがんばった部類でしょうか。
> 先々場所あたりから「大波兄弟の全盛期の終わり」という感があり、非常に寂しい
言われてみると……大関になる前に年齢とケガが来てしまった感じはしますね。
そして朝紅龍は確かに逆三角形ですからね。『刃牙』は中途半端にしか知らないですが……朝紅龍には下半身も鍛えてもらいましょうw
Posted by DG-Law at 2026年03月28日 23:17
幕下上位から横綱まで、あと1勝していればと思える力士の多かった場所のように思えました。前半は高安と隆の勝がリード、中盤は混沌、早めに優勝が決まった後は琴櫻が妙に強かったのが印象に残りました。

安青錦は優勝争いまでは確実かと思いきや、序盤に足の指でも痛めたのか、星が伸びないどころか勝ち越しも危ういという、今まで見たこともない苦戦続き。春巡業も休場力士がけっこういるので、怪我が多いというか怪我人の多い場所でした。
全休で心不全と診断された翠富士、力士生命は大丈夫でしょうか。

照ノ富士の処分もまだ決まってないようで、こちらも悩ましい問題です。
Posted by EN at 2026年03月29日 21:57
他の方のコメントにもありましたが,悔しい負け越しが多い場所でしたね。
安青錦は目立ったケガはなさそうなので,これまた他の方がコメントしている通り,当人の焦りと対戦相手の対策の進みが重なってこうなったのでしょう。
翠富士は非常に心配ですね。心不全とは穏やかではない。
照ノ富士の処分は4/9とのこと,大人しく待ちましょう。部屋取り潰しということにはならないと思っています。
Posted by DG-Law at 2026年03月29日 23:09