2026年08月28日

慶應大・経済学部・世界史のグラフ問題のある特徴について

 本ブログは進学校の高校・塾・予備校との競合を避けていて,受験生に直接役立つような受験テクニックの紹介は基本的に行っていない。しかし,これはまだインターネット上で見かけなかった受験テクニックであるので,指導者向けに紹介しておく。無論の事ながら,このテクニックはこのブログを見かけた各自が自由に受験生に紹介してかまわない。私が第一発見者ではない可能性も捨てきれない。そもそもそこまで有用なテクニックでもない。
 慶應義塾大・経済学部の世界史では,グラフ問題が頻出である。とりわけ経済的な指標を縦軸に,年代を横軸とした上で年代を伏せ,グラフ5年または10年おきに区切り,折れ線の形を見て年代を特定させるタイプの問題が多く,経済学部を特徴づけるものになっている。たとえば2026年で出題されたものは以下の通り。

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問13 下線部Cに関連して,次の第1図は,ヘトナム戦争の時期を含む40年間におけるアメリカからイランの武器輸入額とドル建ての金価格の椎移を示したものである。図の横軸の1〜4は,10年ごとの区分である。以下の� Ν△謀�えなさい。

2026慶應大・経済学部・年代グラフ


� ‖茖運淬罎裡欧了�期にドル建ての金価格か大きく変動しはじめる理由について,当時の国際通貨体制の変化に触れつつ,〔解答用紙B〕の所定の欄の範囲内で説明しなさい。

�◆_爾�a〜dの出来事が起きた時期を,第1図の1〜4の中からそれそれ選びなさい。ただし,a〜dの出来事がきた時期が1の時期より前の場合は0を,4の時期より後ろの場合は5を選びなさい。(重複使用不可)

a.イラン=イラク戦争が停戦となった。
b.首相となったモサデグ(モサッデグ)のもとで,イランの石油産業が国有化された。
c.第一次石油危機が起こった。
d.ホメイニが帰国して,イラン=イスラーム共和国が成立した。
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解法としては,�,魯屮譽肇鵝瓮Ε奪座寮�と1971年にニクソン大統領が発表したドル=ショックについて説明すればよい。�△魯哀薀佞鮓�て,イランの武器輸入額が激減した年が1979年か1980年のいずれかであり,またドル建て金価格の変化が始まる年が1971年か72年である。したがって1の時期が1955-64年・2が1965-74年・3が1975-84年・4の時期が1985-94年か,最初の年が1956年で最後の年が1995年のいずれか,という二択までは特定できる。そのいずれにせよ,a〜dの出来事の年を当てはめると,aが1988年なので4,bは1951年なので0,cは1973年なので2,dは1979年なので3となり,これでいずれも正解である。なお,元データに当たってみると最初の年は1955年が正しく,1956年ではなかった。
 このようにグラフの形から年代を特定するのが肝要になる問題であり,後述するように大概の年はそれほど困らない。しかし,たまに困った問題が出る。とりわけ2026年の問題で言うところの�△里茲Δ別簑蠅如で�代の特定を1年間違えていると誤答になってしまうような出来事がa〜dに潜んでいることがあるため,できればグラフの年代は1年単位まできっちりと特定できた方がよい。
 そこで,これに役立つ何か上手い受験テクニックはないものかと思い,2007-26年の20年分の慶應義塾大・経済学部の入試問題に出ている「横軸の年代が伏されたグラフ問題」を見直して,使われている経済指標と開始年を整理してみた。それが以下の表である。例によってライブドアブログはグラフを貼れないので,文字データははてなブログに貼っておく。

慶大・経済学部・年代当てグラフのリスト


 これを見て気付くことがいくつかある。まず,この種のグラフ問題は実は過去20年で11年(12回)しか出題されていない。2015-19年は一度も出ておらず,空白の五年間が存在する。一方,2022年以降の五年間は必ず出題されており,これがこの種のグラフ問題が絶対に出るという先入観の原因になっていそうだ。また,例外なくアメリカの経済統計が含まれている。そういう印象は受験世界史に携わる人なら誰しもが持っていると思うが,改めて一覧にすると例外なしとは,壮観である。しかも,1971年ドル=ショック(表中の赤字)または同年のアメリカの貿易赤字転落(緑字),またはアメリカが1997年のアジア通貨危機の被害を“受けなかった”こと(青字)を用いた問題が計9つある。20世紀後半以降の指標は全てこの3種類のいずれかであるから,頻出3指標と名付けていいだろう。
 区切り方も特徴がある。2014年以前は5年区切りの問題が多かったのに対し,2020年に復活して以降は10年区切りの問題が増えた。グラフがよりロングスパンになり,より広めの年代が問われるようになったと言える。
 ここまで挙げた特徴はすでによく知られているものばかりであって,特に新奇性は無い。ここで最後に,グラフの開始年に注目したい。12のグラフのうち,5の倍数年で始まっているものが8つある。塗りつぶしたセルが該当する。これはそこそこ強い法則性で,作問者が意図的に5n年にしていることは明白である。しかし,私がググってみたりGeminiに聞いてみたり,参考書を読んでみた範囲では,指摘しているものが見当たらなかった。しかし,このテクニックが見つけられていないまたは広まっていない理由も,ここまでの分析から見えてくる。頻出の3つの指標だけで年代がほぼ特定できてしまうグラフが多すぎるし,1年程度のずれならほとんどの問題で困らないためである。
 一方,1年単位での完全確定が必要であるなら,最初の年を5n年で仮置きしてみる価値は十分にある。たとえば2026年のグラフは,金ドル兌換停止が1971年であることを知っていても,イラン革命が1979年と知っていても,最初の年が1955年か56年かは確定できない。ここで「1955年である確率の方が高い」と知っていると,万が一a〜dに1年違いで答えが変わる出来事があったとしても,多少は気が楽になるだろう。また,頻出の3つの指標以外が出題されたなら,もう少し活用方法がある。直近20年間で頻出3指標以外が出題された3つのグラフでは,そのうち5nではないのは2023年度の1つのみで,他の2つはきっちりと5n年である。約67%の確率で1年単位のずれも許さず年代を確定できるなら有用だろう。 
 以上の知見が受験指導の足しになれば幸いである。なお,日本史にも同種の出題があるが,私は未調査であるから,どなたか調べてもらえると助かる。