2026年09月07日

2026年7月上中旬に行った美術館・博物館(明治の洋館,真言宗)

 江戸東京博物館の明治の洋館展。擬洋風建築に始まり辰野金吾や片山東熊に終わる歴史を追う。迷走しながら導入しただけにバリエーション豊富な建築物が楽しめ,後世の建築史家の分類の苦労が紹介されているのも良い。日本人の側がよくわからないまま摂取している一方,教える欧米人の側も教員が少数に限られているので,どうしても情報が偏ってしまう。とりわけジョサイア・コンドルが日本で建てた多くの洋館にベランダがあり,その弟子たちが「洋館にはベランダをつけないといけないんだ!」と学習した後,留学してベランダはコンドルの趣味に過ぎなかったことが発覚するのがこの企画展のハイライト。コンドル先生……そのコンドル先生でもベランダをつけられなかったニコライ堂,実はすごいのでは。いかにコンドル先生でも教会建築には流石に我を通せなかったか。
 また,解説が「これはネオ・バロックらしくない」等の正直な批評で面白かった。絵画作品の展覧会でも,自前の所蔵物ならこれくらい正直に批評してもいいのではないか。展示物では鹿鳴館の残骸がレアだったか。残していそうなものではあるが,実物を見ると本当に残しておいたんだという感謝の気持ちが芽生えた。いや,建ったまま残しておいてくれれば一番良かったのではあるが。
 ついでに常設展も見ていった。江戸東京博物館は長く休館しており,2026年3月末にリニューアルオープンしたばかりである。私はリニューアル後は初めて,というより常設展が十数年振りであったので新鮮に楽しめた。概ね江戸開府から現代までの都市史,住民の生活史を追う。20世紀末まで来ると自分の同時代史になり,ガラケーや当時流行していたもの等もあって懐かしい。また,わずかながら伊豆諸島や被差別部落,関東大震災時の流言飛語の展示もあり,わずかではあれそれらから逃げなかった点は評価したい。
 なお,企画展は空いていたが,常設展は家族連れや老夫婦,若いカップル等で非常に混んでいた(デートスポットとして有名なのか若いカップルは思っていたよりもかなり多かった)。確かに体験型なので多人数で行った方が楽しい展示だと思う。あの人口密度の高さ自体が江戸や東京をよく表現しているという点で,観客もまた展示物という意味合いもありそうである。
 



 東博の真言宗展。2024年の空海生誕1250周年記念事業だそうなので,2・3年ずれてしまったのはそれだけ準備が大変だったということだろうか。日本全国の寺が総力を結集して寺宝を貸し出してくれたので,端から端まで国宝か重文であり,東博の平成館を借りた真言宗のパーティー会場のようなことになっていた。長く信仰の場で用いられていたものが多いだけに(秘仏だったものもあるにせよ),昔の人はこの細かい細工をよく作ったものだというよりも,よく長い間この細かい細工が折れずに残っていたものだという感慨が先立った。密教らしく謎の如来が大量に出てくるのが面白い。
 また,『信貴山縁起絵巻』の1巻(飛び倉の巻)が展示されていた。東方好きとしてはやはり『東方星蓮船』の元ネタを拝めて幸せな気持ちになった。同時期の奈良博で『信貴山縁起絵巻』の3巻(命蓮の姉が登場する巻)が展示されていたのでそちらも見に行ったのだが,これは偶然の産物で示し合わせたわけではないらしい。