K-1がどうしてこうなったのか,ということについてはネット上で多くの分析がなされているが,それらを並べてみる。
まず,世界を目指すと言いつつ,日本の市場に頼りきりであったこと。ヘビー級ではモンスター路線撤回以後,各地で大会を興すようになったが,モンスター路線時代はやたらと小規模な国内大会が多く,そこでモンスターを使いきってしまった感があり,同時に(悪い意味で)プロレスと同一視されるようになっていった感もある。PRIDEを中心とした団体間抗争を煽ったのも醜かった。K-1の元々のファン層はプロレスとはだぶらず,むしろボクシングに近かったのだから,石井元館長の「競技化」路線はそのままで良かったし,モンスター路線ならそれはそれとしても,はじめから世界を見据えて興行を打つべきだった。2003-05年あたりは,二重の意味で貯金を食いつぶすだけの期間であった。
06-07年頃から次第にモンスター路線を撤回し,反省の弁もないままいつの間にか競技化路線に戻っていたが,今度はMAXやらPRIDEから引き継いだDREAMやらに力を入れ始めたという,無軌道な多角化路線。しかし,変にK-1本体よりも日本人が活躍できてしまうためか,今度はこちらが露骨な日本人びいきで,結局体質は変わっておらず,なぜ競技化が求められたか運営陣が理解していないことが露呈した。結果的にMAXはMAXで盛り上がったからいいものの,それで本体の運営がおそろかになった点は指摘しておきたい。K-1本体がやるべきは「無差別級」「立ち技」「世界最強」の維持であって,それ以外は本道ではない。
一方で,「立ち技最強」にこだわったのはいいのだが,他の競技や団体をこけにしすぎた。昔から思っていたのだが,これは旧来の格闘技ファンの心象を相当悪くしたと思う。元々K-1のKは格闘技のKで,異種目最強決定戦だったはずなのだが,次第に「K-1」という種目が確立していった。これ自体はまあ,競技化路線でやっていく以上は別に本道だと思うのだが,ところがこの自意識の拡大がモンスター路線と合体すると肥大化し,いつの間にか「K-1で勝った奴が立ち技最強」ではなく,「K-1を本拠に戦ってる奴が立ち技最強の選手層」ということにすり変わってしまい,そこから他種目への蔑視が強まっていった。これはK-1のプロレス化にもつながり,上述の総合格闘技との馴れ合いにもつながった。まあ,一番の被害者は間違いなくボクシングだが。
スターは勝手に出てくるものではなく作るもの,という傲慢な発想。そもそもモンスター路線が受けなかったので競技化路線に戻したわけだが,手遅れだった。競技化を目指す方針がスター作成方針と衝突し,不可解な判定や恣意的な選手&マッチメイクが全く減らなかったため,本当に実力主義に回帰したとは言いがたい状況だった。しかも「作られたスター」が,魔裟斗とバダ・ハリはともかく,武蔵やテイシェイラ,ボンヤスキーではぱっとせず,作られたうちの半数以上は全く光ってくれなかった。特にボンヤスキーや武蔵の不人気がK-1に与えた影響は正直な話致命的であろう。(一応補足するが,両者とも過大評価にせよ一時期トップファイターにたる実力者であったことは否定しない。過剰な優遇だけが不可解であった。)
財務体質が悪い原因の一因として,石井元館長の一家による中間搾取を挙げている方もいるが,証拠がない以上眉唾である。これが本当だとしたらK-1は石井館長が作って潰した自作自演に近いことになるが,真相は潰れてから誰かしらが暴露本でも出さない限り闇の中だろう。これに引っ掛けて谷川氏と石井元館長の間で確執があるという説もあるが,同様に眉唾甚だしく,谷川氏自身は否定している。現状私はこれらの説を信じていない,というよりも信じるだけの材料がない。いずれにせよ,単純に最盛期02年に東京ドーム・約7万5千人あった集客力が,07年に横浜アリーナに移ると約1万7千人になり,10年にはとうとう有明コロシアム約1万2千人にまで落ち込んだ。Dynamiteこそ箱としてさいたまスーパーアリーナを保っているが,視聴率ではWGPに大きく負けている。人を呼べないから視聴率も上がらず収益がでないのが,極単純な理由だろう。無論,それはそれとして財務状況を明らかにすべきだが。
総じて発端はモンスター路線になるが,06年頃からの競技化路線をきっちりとできていれば「あれは一時の誤りだった」として軌道修正できたのではないかと思う。その意味で真の失敗は06〜08年の運営にある。で,2010年前半くらいまでであれば,「谷川を首にして運営何とかしろ」という話だったのだが,こうなっては再建不可能だろう。谷川一人なんとかして金が湧いてくるわけではない。もういっそIT'S SHOWTIMEにもろもろ全部投げればいいのに。それでオランダで大会開催してフジテレビが放映権買ってくれれば俺は文句ない。ただ,SHOWTIME自身がトラブル絶えないのと,彼らにそれだけの財務的体力はないし,ヨーロッパの外の選手とのコネもなく,おまけにオランダ当局ににらまれているという(移民2世が多く活躍しているので,という多分に人種差別的な問題も含む)。仮にFEGがSHOWTIMEに投げたとしても,石井元館長が商標権を手放さない限りはK-1の名前を使えないので,少なくともK-1の名前が消える可能性は高い。あとはまあ石井さん自身が新企画を立ち上げることだが,あの人は脱税問題でしょっぴかれて館長辞めてからから興行師として死んでるので,もう無理だろう。このまま「立ち技最強決定戦」は地上から滅びるんだろうなぁとか思うと大変に寂しいところである。