ワールドカップの記事はもう少しこまめに書く予定だったが,書く機会の無いまま終わってしまったのでここでまとめて。各国ごとに総評。と言ってもサッカーに詳しいわけでもなければ全試合見たわけでもないので(というより日本戦とドイツ戦以外はあまり見てない),記憶に残ったチームの印象という感じだけれども。順番は日本以外,大会から消えていった順。したがって最後がドイツ。
・日本
1戦目が全てだったなと。1戦目の感想はこちらに書いた通りだが,どうもコンディションがあまり良くなかったらしい話を聞いた。そこら辺の根回しは大概のスポーツで上手な印象のある日本にしてはやってしまった感がある。そしてこの初戦で負けたからこそ,2戦目は余計に硬くなりスコアレスドロー。3戦目は1・2戦目に比べるとようやく本調子になってきたのかなという動きだったが,勝利条件ゆえに前掛かりにならざるをえず,カウンターをバカスカ食らって,そもそも地力に違いのあるコロンビアに1−4と大敗した形になる。1戦目は,いつもの日本の動きであれば,客観的に見て勝てていた相手だったと思うし,あそこで最低限引き分けていれば,ギリシア戦でのプレッシャーも違った。コロンビアにはいずれにせよ負けていたような気がするが4点も取られるわGK交代のような舐めプを食らうわなんてことにはならなかったと思う。
1勝1分1敗で突破,という事前の予測は本調子の日本ならば夢物語ではなかったのでは,と今でも思っている。少なくとも0勝1分2敗という戦績だけを見て「まるで太平洋戦争前の日本のような誇大妄想だった」等と言うのは早とちりに過ぎるのではないか。奇しくも8年前のグループリーグと全く同じ予測・展開となり,得失点も当時が2−7,今回が2−6と本当に似通ってしまった。しかし,対戦相手の格を見ても試合内容を見ても8年前よりは前進しており,
案外と8年で減った1点分の失点は重いのではないかとも思っている。そういうわけで世間ほどには悲観していない。4年後の日本にまた期待しよう。その前に,また予選を勝ち抜いていかないといけないわけだが。
あとまあ,今回ドン引きカウンター戦術の国が多かった反面,我が国惨敗したとはいえ「自分たちのサッカー」としてパスサッカーを通した点は評価してもよろしいかと。実際ペナルティエリアまでは,パスミスが多かった割には運べていたわけで,中盤は悪くなかったと思う。問題はペナルティエリア内での創造性で,改めて香川が機能してればなぁと。
<グループリーグ敗退勢>
・スペイン
どうしてあんなことに。その後のブラジルがああなったので印象が薄くなったけど,逆に言ってスペイン・オランダ戦は二番目に衝撃の大きな試合だった。1失点目まではまだがんばれていたが,2点目を失って精神が崩壊していたように思う。スペインにとっての真の誤算は,チリが思っていたよりも強かったことではないか。普段のスペインならまだしも,オランダに虐殺されて精神的に弱っているスペインには荷が重かった。ブラジルもそうだが,王者というのは一度守勢に回るとガタガタになるメンタルの弱さがあるものらしい。万年優勝候補「無敵艦隊(笑)」たるスペインが帰ってきた,と茶化して笑い飛ばすことくらいしかできない。
・コートジボワール
日本との試合内容を見た上での判断だと,まさかギリシアに負けるとは。実際,ギリシアとの試合は極めて紙一重だったと思うし(というか決勝点のPKは誤審),ベスト16の資格は十分にある国だったと思う(もっともコスタリカにはちょっと勝てそうもない)。前線の攻撃力が高く,見ていておもしろいサッカーだったのもコートジボワールだったから,本当に惜しい。
・イタリア
大期待はずれその2。初戦でイングランドに勝ったときはそこそこ行けるんじゃないかと思ったがそんなことはなかった。コスタリカの出来が非常に良かったために3位というのはあるが,あれではいずれにせよベスト16で終わっていただろう。敗退要因は結局点を取れなかったことに尽き,何よりバロテッリがイングランド戦だけでスタミナが切れたかのごとく動けてなかったのが敗因だろう。かと言って代役もおらず。まあ,全く印象に残っておらず書くことがなくて項目自体立てられないイングランドよりはマシだったかな。
・ポルトガル
初戦でドイツの虐殺に遭い,その後いい試合を見せたものの得失点差で脱落。ただし,初戦で虐殺された原因がぺぺの頭突き&退場なので今ひとつ同情できない。地力で負けてても際どく踏ん張るアメリカとは対照的なチームだった,と言ってしまうと悪く言い過ぎか。
・ガーナ
今大会唯一ドイツと引き分けたチームであり,ノイアーから2点取ったチームでもあるのだが,あの試合のノイアーは不調だっただけではないかと。アメリカ戦・ポルトガル戦では印象がない。
・韓国
サッカーによらず概して国際大会というものは国家的経験値というものが大事で,それがゆえに優勝回数を重ねる国とそうでない国に分かれがちなところはあるのだが,アジアの場合韓国が一番経験値が高いわけで,何が言いたいかと言えばアジア勢総崩れの中では最後の希望だった感があった。まあダメだったんですけど。敗因は不思議と日本と似たところがあり,全体的に普段より動きが鈍かったように見えた。あんなにミスの多いチームでしたっけ。あとまあ,ロシアに勝ってアルジェリアは引き分け,3戦目のベルギー戦は0−1とかで負ければ1勝1分1敗でもベスト16の望みはあるはず,という戦略だったと思うが,ロシアに引き分けて戦略が崩壊,アルジェリアには前がかりになり虐殺,ベルギーには相手に退場があるという幸運も生かせず10人相手に負ける始末とオチまで日本と一緒だった。そんなとこで似ないでも。
<ベスト16>
・チリ
ちゃんと見た試合がベスト16のブラジル戦くらいしかないのだけど,あの試合は今大会の名勝負ベスト3に入る死闘だったと思う。攻守のバランスがよく,ブラジルに見事に渡り合った。勝負がおもしろくなるかどうかは互いの相性によるところが大きいが,その意味ではフィールドのどこでもマッチして潰し合うブラジルとチリは名勝負を演出するにばっちりな相性であった。
・アルジェリア
グループリーグの印象だけで言えばベスト16に上がってきたチームの中では一番弱い部類じゃないかという感じだったが,そのベスト16のドイツ戦は異様なまでに強かった。守備が硬く,あのドイツが攻めあぐねに攻めあぐねて延長までもつれ込ませた。特筆すべきはGKのエムボリ。あれだけ止められるとドイツだって辛い。
・アメリカ
国内人気はアメフトや野球に比べて低い,と言われつつも4年ごとに強くなってないですか。ぶっちゃけて言って守備がボロボロだった感あるが,どれだけボコボコに打たれても間一髪のところで耐えて勝機をつかむ名勝負製造機っぷりは,なんというか他国と比較するとあまり良くない国内環境から生まれたハングリー精神なのかもなぁとか。国内人気が上がってきたことだし,そろそろベスト8に上がるところが見たいなぁ。一つだけケチをつけると,ドノバンの姿は見たかった。年齢に加えて実戦から遠ざかっている,しかも監督との確執があったとはいえ,前述の国家的経験値から言えば必須の選手だったと,私は思います。
<ベスト8>
・フランス
ドイツ戦以外はあまり見てないのだけれど,なるほど隙のない良いチームとして仕上がってるなと。ドイツ戦では何度もディフェンスを崩しており,ノイアーが神がかってなかったら危ないところだった。
・コロンビア
前評判より強いじゃないか,と思っていたら実は優勝候補だったという。真面目な話,ファルカオがいたら準々決勝でブラジルに勝っていたのでは。結局準決勝でドイツに負けていたとは思うが,そしたらネイマールのケガやブラジルのあの惨劇は避けられていたと思うと,全てはファルカオの欠場から始まっていたのかもしれない。サッカーの神様は気まぐれすぎる。そのファルカオに代わってチームの得点源となったのは期待の新星ハメス・ロドリゲス。ただし,実際には大会前から十分に評価されていた選手で,「新星」と呼ぶのはちょっと違うということをサッカーに詳しい人から聞いた。にわかとしては,4年後まで覚えておきたい。
・コスタリカ
誰もが認める今大会最大のダークホース。今回の大会,
終わってみるとドン引きカウンター戦術のチームばかりだったわけでは決して無いのに,そういうイメージがあるのはコスタリカの躍進とオランダのせいだと思う。その両チームが衝突したらどうなるかという非常に興味深い試合があったわけだが,案の定PKまでもつれこんだ挙句,コスタリカのシュート本数はなんと120分で6本という。対するオランダもPK専用GKを出すなど珍妙な試合になった。結果的にはここで敗退となったものの,堅守には違いなかった。
<ベスト4以上>
・ブラジル
グループリーグの戦いぶりからして前評判ほど強くないという印象を受け,次第に化けの皮がはがれていった感じ。結局のところ中盤・守備はまずまずながら攻撃は戦術ネイマールで,フレッジやフッキの出来は正直悪かった。ところがネイマールが大ケガで負傷したのが運の尽き,攻撃力が下がるだけかとおもいきやチーム全体に影響し,特に一番縁遠いはずの守備が完全に崩壊してしまった。ウルグアイもそうだが,ワンマンチームってそういうものらしい。前述した通り,王者というものは一度崩れると元に戻らない精神の持ち主らしく,そういえば4年前も似たような雰囲気でオランダ相手に崩れたなぁと思いだしたものだ。しかしそう考えてみると,4年前よりは明らかに弱体だったのに,ベスト8で終わった前回よりは上のベスト4という成績は立派といえるかもしれない。
・オランダ
まさかの5バックドン引きカウンター戦術を採用し,妙な強さを見せて3位入賞である。サッカーについてはにわかとしか言いようがない私でも分かるファンハール監督の名将っぷりが目立ったが,アルゼンチン戦は采配ミスと言っていいだろう,この試合だけ神通力が消滅してしまったようであった。ロッベンの出来は大会MVPでもいいほどすさまじかったが,
三枚看板であるはずのファン・ペルシーは初戦のスペイン戦だけ,スナイデルも終始ダメで,結果的に戦術ロッベンとなってしまった感がある。大会前の低い評価に比べればいいところまで行った,というのが識者の評価のようだが,三枚看板がきちんと全部機能していればアルゼンチンに勝てたんじゃないかなぁ,というのはにわかの評価だろうか。
アルゼンチン
戦術メッシと言われつつも勝ち上がっての2位。ただし,こちらもオランダ同様,イグアインとアグエロが今ひとつだったがために戦術メッシのような状態にならざるをえなかったのではないかと思う。また,言われていたほど戦術メッシではなく,中盤にはディ・マリアとマスチェラーノがいて案外と攻め手が多かった。逆に言って中盤が厚かったからこそオランダのようなロングボール放り込みにならず,カウンターながら戦術に幅があったからこその2位とは言える。その意味で,オランダとの準決勝はPKまでもつれたが,決勝にふさわしかったのはアルゼンチンであった。決勝がオランダ対ドイツだと,ドイツが虐殺して終わりだったように思う。決勝ではディマリアを欠いたが,その分イグアインがここまで不調だった分動いており,熱戦になった。メッシは随分気落ちしていたが,ドイツとの地力の差はうめがたく,むしろアルゼンチンとして上出来の結果であろう。
・ドイツ
ドイツの戦術は明確であった。とにかく高い位置でプレスをかけてボール奪い,パスをぐるぐる回して相手の中盤〜ディフェンスラインを引き裂き,崩壊したところでゴールに叩きこむ。ラームやシュヴァインシュタイガーがボールを奪うと,エジルとミュラーが引っ掻き回して相手組織を破壊し,最後にはミュラー自身やクローゼが決める。ゲッツェやシュールレも輝いていた。これらがピタッと合わさるとブラジル戦のような殲滅戦になる。特にエジルとミュラーが自由に暴れまわると手がつけられない状態になるが,ワンマンチームではないがゆえに封じるのは困難であった。
一方,高い位置でボールを奪うためディフェンスラインは上がりっぱなしにならざるを得ず,結果的にディフェンスラインを抜かれると無人の広野がGKまで一直線という巨大な欠点があり,打ち合い覚悟の戦術になるはずであった……本来なら。にもかかわらず,今回のドイツがむしろ鉄壁であったのは,フンメルスとボアテングの二人が好調だったというのもあるが,何よりもがんがん前に出るGKノイアーの存在が大きい。
なんすかヒートマップだけ見ればCBて。かくのごとく最強に見えるドイツだが,実は欠点もいくつかある。まずノイアーの調子に大きく左右される戦術であり,「実は戦術ノイアーなのでは」という意見もtwitterでは見られたが割と同感である。実際ガーナ戦はそれで大分危なかった。とはいえガーナ戦以外では全く見られなかったのだが。
ペナルティエリア内でのシュートの正確さが機械並と称されたドイツチームだが,決勝戦だけは少し動きが鈍かった。機械も緊張するようである。それでも難敵アルゼンチンを下しての優勝し,名実ともに今大会最強のチームとなった。しかも主要メンバーがそれなりに若く,特にエジル(とロイス)25歳,ミュラーとクロースが24歳,シュールレ23歳,ゲッツェが22歳と凶悪オフェンス陣があと2大会くらい残りそうなあたり,他国には悪夢でしかない。代役を探すのが難しそうで,かつ次の大会にはいなさそうなのはラームくらいかなぁ(続報にてラームは代表引退を決めたとのこと)。ワールドカップ連覇を期待したい。