東方関係。
・『東方外來韋編』2019秋。
→ 作品紹介は東方鬼形獣・東方輝針城・弾幕アマノジャク。これで新作として紹介された作品も紹介済みと考えるとほぼ全部紹介し終わってしまっているが,来号からどうするんだろう。旧作に行くか,2周目に入るのか,別の特集を組むのか。できれば『茨歌仙』と『鈴奈庵』の振り返りをやってほしい。秘封倶楽部の音楽CDでも神主のコメントが面白そう。
→ 東方鬼形獣については,畜生界についての「奴隷とヤクザしかいない,内部抗争しかない,だから地獄じゃないけど地獄的」「元家畜と元野生動物を両立させるとそうなった」と言っていたのが印象的。そこに人間霊も混ぜ込んで社畜を揶揄し,ディストピア批判につなげてきた辺りは,東方天空璋の時に障害者の話を混ぜ込んできた最近の神主の傾向がよく出ている。このまま次の作品もこの路線だったら,天空璋・鬼形獣とそれで「社会批判三部作」と名付けたいところだが,どうなるか。神主は「神霊廟で三部作形式は止めた」と言っているから(実際に宗教シリーズは五部作だった),案外に社会批判二部作で終わるのかもしれないが。
→ その輝針城は宗教五部作が終わっての1作目であり,ここから正規ナンバー作品は2年おきの発売になる1作目でもある。神主自身仕切り直しの感はあったそうで,「紺珠伝が昔からのファン向けだから住み分けが出来ているのではないでしょうか」とのこと。ファン側はあまりそういう感覚は無い。なにせ,新参も結局初期三部作から触れる人の方が多かろうと思われるので……
→ インタビューは岸田教団の総帥岸田氏。本雑誌のインタビューではよくあることながら,来歴が30代半ばのオタクの王道すぎて親近感しかない。「初めて買ったCDが『FF6』のサントラ」「学校をさぼって『AIR』を買いに行った」「ROのやりすぎで学校通ってなかった」「『Fate/stay night』の発売日にライブが入ったのでバンドを脱退した」「好きなエロゲーは『家族計画』『CROSS CHANNEL』『ヴェドゴニア』」というエピソードの数々にわかりみが深い。『Fate』のエピソードロックすぎない……惚れるわ……
→ 漫画は火鳥さんのが面白いかった。「外來韋編だからこそ描けることもある」,確かに。正邪が東方の設定自体をひっくり返すなんて話,半公式の場でしか描けない。
・『東方茨歌仙』10巻(完結)。
→ 8年の連載で堂々の完結。万感の思いが募る最終巻であった。本作と『鈴奈庵』が並走していたここ数年は,東方ファンにとって本当に幸福な時代であった。今年始まった新連載たちにも期待したい。
→ この10巻だけ主人公が完全に比那名居天子。なにこのイケメン。知力・戦闘力・行動力・人脈の全てが適任だった。そしてラスボス,パーフェクト茨木華扇の美しさよ。茨木華扇は仙人として完成するために,邪気の籠もった右腕を再封印したがっていた。しかし封印は一度合体した上で,誰かに自らの右腕をもう一度切り落としてもらう必要があった。そこで霊夢に当てをつけて修行をつけて鍛え,霊夢の金儲けに協力して(?)腕を霊夢に入手させていた。天子の登場はちょっと唐突であったが,『茨歌仙』で繰り返された短編がこの解決に意味を持っていたとは。
右 そして最後は天子に倒し方を教えてもらった霊夢が単独で鬼退治。妖怪退治の専門家の面目躍如で主人公の座を取り戻す。比那名居天子は地上で霊夢の活躍を語り,再封印された鬼の腕は華扇が戒めとして預かった。鬼にして仙人を目指し,邪気を克服して人間に寄り添うちょっと不思議な大妖怪の物語はこれ以上ない大団円で幕を下ろした。人間に死があるように,華扇には悪行の記憶と邪気の戒めがある。彼女は良い仙人になるだろう。
・『東方Projectあずまあや画集 はなおうぎ』。
→ 約10年の画力の成長の記録が見られる画集。茨木華扇に修行をつけてもらっていたのは霊夢だけではなく作者も同様であった。1・2巻は不安定だったが3巻で安定し,4巻からは画風自体が変わっていっていて,6・7巻あたりから明らかに描き込みが細かくなっている。10巻の表紙の見事なものよ。
・『CANNA』あずまあや総集編2。
→ 同人誌ではあるが,『東方茨歌仙』完結,『はなおうぎ』発売と同時期に頒布され,あずまあやの画業において一区切りの作品ではあるのでここに。
→ 本作はあくまで二次創作であり公式作品ではないが,公式作品を描いてきた作者だからこその考察があって面白い。幻想郷における人間のサザエさん時空問題に切り込んで話題になった「ロストガール・ロストレディ」も収録,というよりもこの総集編で描き下ろしがあって真に完結した。幻想郷で主人公機になるような人間はなんだかんだで半分妖怪みたいなのばっかりだが,純粋な人間の魔理沙と,外の世界から入ってきた早苗の二人だけはやはりちょっと視点が違う。あずまあやがこの二人を描きたくなるのはそういうことなのだろう。